好ましからざる人物

オリンピック返上

週刊現代2016年12月03日号の記事。 ボクもそれがいいと思うよ。 それはそうと、もう師走。 早い早い。 今年もあと1ヶ月か...。


以下、WEBに掲載されていた記事全文
「あと3年半」なんて、ウソでしょ? と言いたくなるほど、課題山積の東京オリンピック。このままでは、招致した時には思ってもみなかった、莫大な額のカネが必要だ。決断の日が迫っている。

□ 森にだけは負けたくない
「小池さんは、振り上げた拳の落としどころを、今年の年末、遅くても来年の2月ごろまでには見つけないといけない。『本番』までは、もうあと3年半しかないんですから」
こう指摘するのは、元神奈川県知事で参議院議員(無所属)の松沢成文氏である。
3兆円超——小池百合子東京都知事と、都政改革本部調査チーム、通称「チーム小池」が見積もった、東京オリンピックの総費用だ。昨年10月、舛添要一前都知事が、「大まかに言って」と前置きした上で口にした額も、同じ3兆円だった。1年が経ち、都知事が替わっても、事態は好転していない。
小池氏にはもう、時間がない。どうしたら、この天文学的な費用を削ることができるのか。
「東京オリンピックの予算を徹底的に見直す」とぶち上げて都知事選に圧勝した手前、数百億円を浮かせたくらいでは、都民が、そして国民も納得しないだろう。
オリンピックは、自民党、そして組織委員会会長として居座り続ける森喜朗氏にとっては、決して譲ることのできない手柄であり、利権の塊だ。豊洲新市場の問題追及では向かうところ敵なしだった小池氏も、ほぼ完封されている。東京都議会の野党議員が明かす。
「11月末には、ボート・カヌー競技の会場が予定通り『海の森』(水上競技場。江東区の東京湾岸に建設中)に決まる見込みです〔後注:11月29日に正式決定〕。小池さんは復興支援と予算の削減を名目に、宮城県の長沼ボート場へ会場を移す算段でしたが、結局、自民党側に押し切られてしまったわけです。
小池さんにとっては大ダメージです。東北の人は、『小池さんなら、オリンピックを東京と東北の共催にしてくれる』と期待していたのに、肩すかしをくらうことになる。今は親小池ムード一色のマスコミも、ここから潮目が変わりかねない」
水泳種目の会場も、規模の問題から、既存の辰巳国際水泳場が使えず、新たな施設を作らなければならないことを「チーム小池」が認めている。
「あとはバレーボール会場の有明アリーナを新設するかどうかですが、ここは小池さんとしては、何とか既存の横浜アリーナに誘導したい。そうしないと、これまで焦点になっていたボート、水泳、バレーボールの3つで『全敗』ということになりかねませんから」(前出・都議会野党議員)
小池氏がいくら奮闘しても、これらの改革で削ることができる額は、せいぜい400億円程度。
しかし前述したように、都民と国民はすっかり、彼女ならば「3兆円」が「2兆円」に減らせるはずだ、と期待してしまっている。小池氏がどうあがこうと、この「見直し路線」を続ける以上は、勝ち目がないのだ。
ワイドショーをジャックし、女性を中心に圧倒的な支持を集めてきた小池氏の「神通力」にも陰りが見え始めた。別の都議会野党議員が言う。
「このまま立ち往生して決断が先延ばしになったうえ、改革の効果も大して上がっていないとなれば、遠からず世論は小池批判に転じるでしょう。目先を変えるために、小池さんとしては一刻も早く、次のネタを出さなければいけない」

□ 賛成する都民は多い
就任から3ヵ月あまり、これまで小池氏はずっと、自民党が作り上げた既存の秩序をぶち壊す姿勢を見せ、喝采を浴びてきた。だがそれだけでは、早晩行き詰まってしまうことは明らかだ。
とはいえ、弱気になっては、「小池旋風」を維持することができない。これまで高々と持ち上げられてきた以上、落とされたときの衝撃もまた大きい——だからこそ、ここで小池氏は、日本中が驚愕する「ウルトラC」を、先手を打って繰り出すほかないのである。
「『東京オリンピック返上』を国民に提案する。いわば、『ちゃぶ台返し』戦法ということです。
オリンピックをやるかどうかの決定権は都知事にあります。もちろん政府・自民党から猛烈な反発を浴びることは確実ですが、国民の中には『こんなに費用がかさむなら、返上してもいい』という声は意外に多い。
トランプ(次期アメリカ大統領)支持者のように、森さんや石原(慎太郎元東京都知事)さんのような既得権益者が、吠え面をかく様子を見たい、という国民もいるでしょう」(都庁幹部)
総理大臣が衆議院解散で信を問うのと同じく、小池氏が自らの首を懸けて五輪返上を国民に問えば、国を二分する激論になることは間違いない。
小池氏は、この「ウルトラC」を本当に実行する権限を持っている。そして、「オリンピック返上など、聞いたこともない」、「世界に対して恥をかくだけではないか」と思う向きもあるだろうが、実は前例がある。
〈決断のときです。国民に、いや、世界中に『すみませんでした。間違いでした。オリンピックは他のところでやってください』と言うべきです〉
これは「チーム小池」のメンバーが、オフレコの場で小池氏に詰め寄った時の言葉——ではない。かつてアメリカ・コロラド州の州都デンバー市が、'76年に開催予定だった冬季オリンピックを返上したときの、地元下院議員の発言だ。

□ 違約金は意外に安い
当時のデンバー市が置かれた状況は、背筋が寒くなるほど、今の東京とよく似ている。
同市が冬季オリンピックの開催地に当選したのは'70年のこと。'76年がコロラド州の創立からちょうど100周年にあたるということで、記念事業的な意味合いの強い立候補だったという。
招致のため、市当局が国際オリンピック委員会(IOC)に提出した計画には「自然環境に配慮したオリンピックにします」「予算は最小限に抑えます」といった、まるでどこかで聞いたことのあるような文言が躍った。
だが'72年には、当初の予算見積もりが小さすぎ、債券を発行して市民から追加資金を募らないと開催できないこと、競技場を作るために、山肌を削るといった大規模な工事が必要になることなど、招致のために市当局が並べた売り文句が、どれも完全に「絵に描いたモチ」だったことが判明する。
そして同年秋、州民投票が実施され、開催反対派が勝利。「オリンピック返上」が決まったのだ。
東京も、'13年のプレゼンで「コンパクトな会場配置」、「強固な財政基盤」といった公約を掲げて招致を勝ち取った。だが、新国立競技場の白紙撤回、大会エンブレム盗作問題、そして予算の際限なき膨張を目の当たりにして、メッキがすっかり剥がれ落ちた今となっては、「幻のデンバー大会」が他人事とは思えない。
「小池さんからすれば、いざとなったら、『オリンピックの予算がここまで膨れ上がったのは、森さんや石原さんをはじめとする招致委員会・組織委員会の責任だ』『彼らの私利私欲のために、都民が大金を負担するのはおかしい』という理屈が立つ。
安倍政権は猛反対するでしょうが、IOCが『この状態では、もう東京には任せられない』と判断した場合には、返上が認められる可能性が高い」(前出・都庁幹部)
仮に都民投票を行って「東京オリンピック返上」となれば、代わりの開催地はどうなるのか。
デンバー市の返上が決まった時は、開催までの残り時間は3年しかなかったが、IOCが世界各地の都市に打診した結果、12年前の'64年に冬季オリンピックを開催したオーストリアのインスブルックに何とか決まった。一度使った施設を再利用することができるからだ。
もし東京がオリンピックを返上した場合は、冬季よりも大規模な夏季大会で、代わりの開催地を探さねばならない。選定をゼロからやり直すのは到底ムリなので、現実的には、同じアジアで'08年開催地の北京、あるいは'00年開催地のオーストラリア・シドニーなどが候補になるはずである。
オリンピックが超巨大ショービジネスでもある以上、返上となると、1000億円単位の違約金の発生は避けられない。とはいえ、「3兆円という巨額の予算と比較すれば、安いもの」と考え、支払うことを支持する国民も決して少なくないだろう。
築地市場の豊洲新市場への移転に関しても、都庁内部では10月以降、「移転そのものの白紙撤回もあり得る」と囁かれるようになっている。同様に、東京オリンピックの「白紙撤回」という究極の策が、賛否はどうあれ、全国民を否応なく巻き込んで大激論を起こすことは間違いない。
自民党と安倍政権、そして組織委員会を相手に、大立ち回りを演じる小池氏——彼女を支持するか支持しないか、われわれ全員が判断を迫られる。そのとき小池氏は、日本中を振り回す「最強の政治家」と化すのだ。
もうひとつ、小池氏がひそかに目を配っていることがある。それは、安倍政権が手を焼いている、天皇の「生前退位」である。
現在、政府の集めた有識者会議で識者が意見具申をしているが、「右派」と目される識者のほとんどが、「生前退位」に反対している。しかし、ある全国紙皇室担当デスクは「生前退位ができないとなると、オリンピックに対する天皇の『配慮』が無に帰す」と言う。
「天皇陛下が『生前退位』したいと言い出した背景には、『もし2020年の前半に自分が死んだら、オリンピックどころではなくなる』という懸念がある。退位さえしていれば、万が一のことがあっても国を挙げた『大喪の礼』を行う必要はない。こう考えているのです」
安倍総理は、「生前退位」の実現のために必要な皇室典範の改正には、乗り気でない。あまりに時間と手間がかかりすぎるため、政治生命を使い果たしかねないからだ。だからこそ、有識者会議では反対派の識者を中心に意見を集め、先送りしようとしている。
しかし、「生前退位」が実現しないとなれば、オリンピック直前に「その日」が来てしまうかもしれない。他でもない天皇自身が、それを誰よりも心配しているのだ。
いずれ国政に戻って総理を目指そうと考えている小池氏にとっては、これは格好の取引材料である。
安倍総理が総裁任期延長で2021年まで居座るつもりなら、東京オリンピックを人質に取り、「天皇陛下の生前退位を認めないと、オリンピックを返上する」という交換条件を突きつける——そんな政治家人生を賭けた大勝負に、今の小池氏ならば出かねない。
一寸先も見通せないのが政治の世界ということは、先のアメリカ大統領選でも見た通り。小池氏の「窮余の一策」が世界に激震をもたらす日は、もう間近に迫っている。

「週刊現代」2016年12月3日号より

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のち

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